ショート・ストーリー
□少女の夏
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夏がおわる。
でも、私の心はまだ、夏に捕われて、この場所から、この季節から離れない。
私にとって中学最後の夏休みは、受験、というより、恋に生きてた。
志望校はレベル高いし、塾には行ってないし。
こんなこと言ったら他の受験生に怒られちゃうかもしれないけど、正直勉強なんて面倒臭い。
だってやらなくったって、本を読んでたら楽勝でしょ?だっていろんな知識を私にくれるもの。
そんなこんなで、私は夏休み、読書をしに毎日図書館に通いつめていた。
家にいてもお母さんがうるさいだけ。
友達なんて皆上辺って感じがするから嫌い。
そう、私には本しかなかった。
そうしてる内に本の貸し出しカードには私の名前が書かれて行く。たくさん。
あの人と会ったのは夏休みに入って二週間ぐらい過ぎてからかな。
「君、田中水乃さん?」
いきなり私より背が一回り小さい(私が百六十ぐらいだから、百五十ぐらいかな?)少年が私の顔を覗き込んだ。
目はくりくりしてて、澄んだ様に綺麗な黒髪。制服をだぼだぼに着くずす様は、まるで七五三みたい。
「君、いつも本借りに来てるよね、偉いなぁ」
「有難う。で、何か用?」
「用がなきゃここには来れないのかぃ?君に挨拶だって出来やしないじゃないか。」
それから、私がどんなに拒んでも彼は毎日きてた。
ただ、挨拶をしに。
「ねぇ、名前なんての?」「それは秘密」
「その方が格好いいから」
こんな宇宙語みたいなコトを話されながら、いつしか彼に夢中になっていった。